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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)801号 判決

原告 新有馬開発株式会社

被告 北税務署長

訴訟代理人 藤浦照正 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  申立

1  請求の趣旨

被告が原告の自昭和四〇年四月一日至昭和四一年三月三一日事業年度分の法人税について、昭和四一年九月二九日付でした更正処分のうち、欠損金額(雑損失)九、八三七、〇八二円を否認した部分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨

二  主張

1  原告の請求原因

(一)  原告はゴルフ場を経営する会社であるが、自昭和四〇年四月一日至昭和四一年三月三一日事業年度の法人税につき、昭和四一年五月二六日被告に対し、欠損金額一八、九五九五、四一四円、翌期へ繰越す欠損金六、七五一、三〇七円とする確定申告書を提出したところ、被告は同年九月二九日原告に対し、欠損金額一、六五一、五五八円、翌期へ繰越す欠損金〇円とする更正処分をした。

原告はこれを不服として被告に対し異議申立をしたが棄却され、さらに大阪国税局長に対し審査請求をしたが、これも棄却された。

(二)  しかしながら、被告の右更正処分のうち、原告が計上した雑損失中金九、八三七、〇八二円の損金算入を否認した部分は、立木売買による損失を土地賃借権取得の対価と誤認したもので違法であるから、その取消を求める。

2  請求原因に対する被告の認否

請求原因(一)を認め、(二)は争う。

3  被告の主張

(一)  原告の本件係争事業年度における欠損金額は、原告の申告にかかる欠損金額一八、九五九、四一四円から左記(1)ないし(6)を減算(損金に不算入または益金に算入)し、(7)を加算(損金に算入)して得た金一、六五一、五五八円である。

(1) 資本的支出と認められる分の償却超過額 二、九八二、七〇五円

(2) 権利金の償却費の否認         二、二二七、八四九円

(3) 雑損失の否認             九、八三七、〇八四円

(4) 役員賞与の損金不算入         一、八九〇、〇〇〇円

(5) 役員に与えた経済的利益の益金算入     三一〇、三八三円

(6) 交際費の損金不算入             六八、八五五円

(7) 前期以前に損金に算入されなかつた償却超過額で今期の償却費として認容する額

九、〇一六円

(二)  右のうち(3)の雑損失の否認はつぎの理由による。

(1) 原告は本件事業年度の確定申告において、すでに過年度に伐採売却した立木の取得原価を金一七、九七八、九四〇円と計算し、これを雑損失に計上して申告した。これは、原告が昭和三五年頃三田市下内神部落などから同市下内神南山五四六番ほかの土地をゴルフコース開設の目的で賃借した際、土地所有者に対し保証金(権利金)のほか、立木代金の各目で金員を支払つていたところ、その後この立木を順次伐採売却し、その代金八、一四一、八五六円は各売却年度の雑収入として益金に計上ずみであるので、その取得原価を本年度の損金に計上した、というのである。

(2) しかし、原告が土地の賃貸借にあたりその地上の立木をも取得したのは、これを伐採して販売する目的からではなく、ゴルフコース造成のためにその大部分を伐採することが必要であつたことによるものであつて、ゴルフ場用地確保の必要上、立木を買取らざるをえない立場にあり、契約の形式上は土地賃貸借契約とは別個に立木売買契約がなされているとはいえ、後者は前者を前提とし、両者は実質上一体となつて行なわれたもので、立木代金なるものはその経済的実質においては土地賃貸借の保証金(権利金)の上積みであり、賃借権取得の対価にほかならない。このことは、右立木代金が立木の時価よりも著しく高額に定められている一事からみても明らかである(だから原告自身も本件事業年度の直前の事業年度までは、保証金と立木代を合わせて「預け保証金」として貸借対照表の資産の部に計上していたのである)。そして、法人税法上、土地の上に存する権利は固定資産で非償却資産とされているから、当該権利の取得価額は権利の存在するかぎり損金とならないが、本件では原告がすでに立木の売却代金八、一四一、八五六円を雑収入に計上ずみであるので、当該金額を賃借権の取得価額から控除することができるものとして、これを雑損失に計上することを認め、その余の金九、八三七、〇八四円については損金経理を否認すべきである。

(3) かりに原告主張のように立木の取得原価を雑損失に計上しうるとしても、原告の後記主張によれば、本件事業年度の立木売却収入は金八二五、八七一円のみであるから、これに対応する立木原価だけが損金経理を認められうるのであり(費用収益対応の原則)、これを原告の主張する価額、石数によつて計算すると金二、〇七一、一七四円となり、その余の金一五、九〇七、七六六円の損金算入は否認されなければならない。したがつて被告の処分には何ら違法はないことになる。

4  被告の主張に対する原告の答弁

(一)  被告の主張(一)のうち(3)を争い。その余は認める。

(二)  雑損失について

(1) 原告は三田市中内神南山に有馬カンツリー倶楽部ゴルフコースを開設するため、昭和三四年二月から昭和三五年一二月にかけて、別紙第一目録記載のとおり下内神部落などから同地付近一帯の山林を、保証金総額四一、七五二、〇〇〇円(賃貸借終了後も返還されない)を支払つて賃借したが、右賃借地上の立木については所有者らから別途買取りを求められ、別紙第二目録記載のとおり代金総額二四、三三八、〇〇〇円を支払つて立木を買取つた。そして原告は買取つた立木の相当部分を伐採して、総額八、一四一、八五六円で売却処分したが、その明細は別紙第三目録記載のとおりである。

この売却立木の取得原価はつぎのように求められる。すなわち、原告が買取つた立木のうち下内神部落の分は約八、〇〇〇石(その余は石数不明)であるので、下内神部落分の買収代金額を右石数で除して、石当り買取単価二、二五〇円を得、これに合資会社今西林業所への売却石数七、九九〇・六四石(その余の売却先への売却石数は不明であるから除外する)を乗ずると、金一七、九七八、九四〇円となる。これが売却ずみ立木の取得原価である。

ところで、原告は本件事業年度の直前の事業年度までは、貸借対照表上、右立木買取代金を土地保証金勘定に計上していたのであるが、これはあやまりであり、正しくはコース施設勘定として処理されるべきであつた。またこの立木を売却したときは、売却代金と雑収入に計上しながら、その取得原価については何ら考慮を払つていなかつたが、これではいわば架空資産を計上することになるので、売却の都度その分の取得原価を当該事業年度の雑損失に振替え計上すべきものであつた。そこで原告は、本件事業年度において従前のあやまつた経理処理をあらためるため、これまで土地保証金に計上していた立木買取代金総額のうち、すでに売却ずみの立木の取得原価にあたる金一七、九七八、九四〇円を雑損失に、その余をコース施設勘定に、それぞれ振替えを行なつたのである。

(2) 被告は立木代金も土地賃借権取得の対価であるというが、土地賃貸借と立木売買は別個の契約として行なわれ、土地賃貸借については別紙第一目録記載のように当時の土地価額に相当する保証金を支払つているのであり、立木代金はこの保証金とは全く別途に授受されているのであつて、土地賃貸借とは何ら対価関係に立たない。

(3) 被告は仮定的に費用収益対応の原則に従つた処理を主張するが、前述のようなあやまつた経理によりいわば架空資産を計上しているような事態が判明したときは、たとえ事業年度を異にする場合であつても、これを是正するため、便宜的に遡及して一括した損金計上を認めるべきである。

(4) 原告の取得した土地賃借権は、借地法や建物保護法により永続的権利性、物権性を与えられた借地権ではなく、単なる債権にすぎない。しかも、本件賃貸借が行なわれた当時、本件土地一帯において土地使用の対価として権利金その他の一時金を授受する慣行は全く存しなかつた。このような場合には、たとえ保証金なるものを授受していても、この種の賃借権を資産勘定に計上することは本来税法の要求するところではなく、これを市街地における借地権と同等に取扱うべきではない。したがつて、かりに原告の主張する雑損失の計上が認められないとしても、少なくとも本件事業年度分の償却は認められるべきである。

三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因(一)の事実(本件更正処分の存在)は当事者間に争いがない。

被告の主張(一)のうち、(3)を除いては当事者間に争いがなく、本件の争点は、売却立木の取得原価相当額の損金算入を認めるかどうかの点に帰する。以下この点について判断する。

二  証人藤井邦彦の証言により真正に成立したと認める甲第一、第二号証、成立に争いのない乙第四、第五号証、第七号証の一、三、第八号証の一、二、原本の存在と成立に争いのない乙第六、第九号証、証人藤井邦彦、小殿周治、中谷吉治、寺田勝次郎の各証言を総合すると、つぎの事実が認められる。

1、原告は有馬カンツリー倶楽部ゴルフコースを開設するため、昭和三四年から三五年にかけて、三田市下内神、中内神、沢谷付近一帯の山林をその所有者らから賃借したが、その際右所有者らの要求により、右賃借地上に生育する立木について、土地賃貸借契約とは別個に立木売買契約を結び、前者については保証金(ただし賃貸借終了後も返還されない約定のものであるから、いわゆる権利金にあたる)として別紙第一目録記載のとおり合計金四一、七五二、〇〇〇円を、後者については立木代金として別紙第二目録記載のとおり合計金二四、三三八、〇〇〇円を、それぞれ支払つた(この金額は甲第一号証による。下内神部落および中内神部落との各土地賃貸借契約書(乙第四、第九号証)にはいずれも保証金三〇〇万円と記載されていて、甲第一号証とくいちがつているが、証人藤井邦彦の証言によれば、右各契約書の数額は他の思惑から圧縮して記載されたものであることが窺われ、乙第七号証の三の記載に照らしても、甲第一号証の方が正しいものと認められる。また下内神部落との立木売買契約書(乙第五号証)には、立木代金一八〇〇万円と記載されているが、乙第六号証および証人小殿周治の証言によると、ゴルフ場造成工事の便宜上、賃貸借にかかる土地以外の土地の立木も金四〇万円で売買していることが認められるので、これをあわせると甲第一号証記載のとおり金一八四〇万円となる)。

2  原告が右立木を買取つたのは、これを伐採して売却する目的からではなく、ゴルフ場を造成するにはコースにあたる部分の立木を大部分除去する必要があつたからで、賃借した土地をゴルフ場として使用するには地上の立木も買取り処分権を取得せざるをえない立場にあり、その故に右立木代金なるものは立木の実際の時価とは無関係に、それよりもはるかに高額に定められた(たとえば下内神部落分の立木についてみると、当時その材積は約八〇〇〇石で時価八〇〇万円位と見積られていたのにかかわらず、代金は一八四〇万円とされている)。そして原告はその後この立木の相当部分を代金合計八、一四一、八五六円で、伐採売却した。

3  原告は、本件事業年度の直前の事業年度までは、財務諸表の付属明細書において「立木代」を「借地保証金」とともに「土地保証金」の名で一括し、これに災害補償金と預け敷金をあわせて「預け保証金」として貸借対照表の資産の部に計上するとともに、立木売却代金八、一四一、八五六円は各売却年度の雑収入に加えていたのであるが、本件事業年度に至りこれをあらため、立木買取代金のうちすでに売却ずみの立木の分を金一七、九七八、九四〇円と算定し(これは、買取価額と概略石数の判明している下内神部落分にもとづき石当り買取単価を推計し、これに最も大口の売却先である合資会社今西林業所に対する売却石数七九九〇、六四石を乗じて算出したもの)、この額を売却立木の取得原価にあたるものとして雑損失に計上し、その余はゴルフコースに立木として残存している立木の分であるから、コース施設勘定に振替えた。そしてこれにもとづいて本件事業年度の確定申告をしたところ、右のような損金経理が被告の容れるところとならず、更正処分を受けるに至つたのである。

三  税法では土地の上に存する権利は固定資産に属するものとされており(法人税法二条二三号、同法施行令一二条)、この規定は当該権利が借地法にいう借地権であると否とを区別していないから、建物所有を目的としない本件土地賃借権も固定資産にあたるわけである。そして固定資産の評価についてはいわゆる原価主義がとられているところ(昭和四九年法律一四号による改正前の商法二八五条の三参照)、固定資産の取得価額とすべき金額についてはとくに規定が設けられていないが、減価償却資産の場合(法人税法施行令五四条)と同様に、当該資産の購入の代価(購入のために要した費用を含む)とこれを事業の用に供するために要した費用の額との合計額がその取得価額となるものと解すべきである。

本件において、原告が本件土地の賃借権を取得した目的は、この土地にゴルフ場を開設することにあり、またその地上の立木を取得したのは、それが賃借土地を右のような目的に従つて利用するにつき必要不可欠であつたからであることは、前認定のとおりである。すなわち、原告の本件立木の取得は、立木そのものの経済的有用性ないしはその商品としての価値に着目してこれを伐採売却することを目的としてなされたものではなく、むしろゴルフ場開設という目的からは、コース予定地に生育する立木はおおむね邪魔であるので、その大部分を伐採除却してその跡地をゴルフコースとして整地し、一部分は立木のままコースの施設として残存せしめなければならず、そのためには単に土地の使用権を取得するだけでは足りず、立木の処分権も取得しておく必要があつたからであると考えられ、いいかえると、この立木の取得は、賃借した土地を原告の意図した目的に従つて使用しその目的を完全に実現するに必要なものとして、賃貸借契約に付随してなされたものというべく、それだからこそ本件立木の代金は、時価にかかわりなく時価をはるかに上まわる額が定められ、それが別に異とされることもなく双方に受け容れられてきたのである。したがつて、本件における立木の代金なるものは、賃借した土地をゴルフ場経営という事業の用に供するために直接要した費用であり、保証金(権利金)とともに土地賃借権取得の対価に含まれるものと解するのが相当である(原告は、土地賃貸借について保証金名義で支払つた額が当時の土地価額に相当するものであつたから、立木代金は賃借権取得とは全く対価関係に立たないと主張するが、右保証金が土地価額に相当するかどうかを認定できる資料はないのみならず、かりにこれが肯定されるとしても、そのほかに右に述べたような意味での費用にあたるものがあれば、その額も賃借権の取得価額に加えられるのである)。

もつとも、本件のように立木の経済的有用性の利用を目的としていない場合であつても、立木そのものが財産的価値を有していることは否定できないから、厳密には立木代金とされた金額のうち、立木の時価に相当する部分と時価をこえてもつぱら賃借権取得の経済的目的達成のために支出された部分とを区分し、前者を立木の取得価額とし、後者だけを賃借権の取得価額に含めるのが理論的であるかもしれないが、立木の時価を算定することが実際上かなり困難であり、そのきめ方いかんによつて将来の立木売却による損益を操作できるという好ましくない結果が生じる可能性がある。そこでこのような場合には、立木代金全額を賃借権の取得価額に包含せしめ、将来立木の売却収入があつたときは、それを雑収入に計上しないで、取得費用の控除項目として扱うのが妥当である。

ところが、本件では前述のように、原告は過年度において合計金八、一四一、八五六円の立木売却収入を一たん各売却年度の雑収入に計上しているのであるから、これを取得費用の控除項目として扱うには、右金額と同額の雑損失計上を認めればよいことになるわけである。

以上考察したところによれば、原告が売却立木の取得原価だとして雑損失に計上してきた金一七、九七八、九四〇円のうち、右金八、一四一、八五六円をこえる金九、八三七、〇八四円は雑損失とはならず、従来どおり保証金(権利金)勘定か、または本件事業年度で一部振替えているようにコース施設勘定に計上すべきものである。

四  原告は、永続的権利性、物権性なく単なる債権にすぎない本件土地賃借権を借地法等により保護される借地権と同様に取扱うべきでなく、かりに雑損失計上が認められなくても、少なくとも本件事業年度分の償却は認められるべきであると主張する。しかし、法人税法は、前述のように土地の上に存する権利を固定資産と定め、かつこれを減価償却資産としていないのであり(法人税法二条二三号・二四号、同法施行令一二条・一三条。なお同令一四条一項九号ロは、「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金」を繰延資産としているが、同令一二条、一三条の規定と対比しこれらを総合して考えると、右にいう「資産」には土地は含まれず、土地賃借のための権利金は繰延資産にはならないものと解すべきである。法人税基本通達八ー一ー三参照)、この点についても借地法にいう借地権であると否とでちがつた扱いをしていないから、原告の主張する償却を認めるわけにはいかない。

五  そうすると、本件において金九、八三七、〇八二円(前記金九、八三七、〇八四円の単純な計算の誤りであろう)につき原告の損金経理を否認してなした被告の更正処分は適法であり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下出義明 藤井正雄 石井彦壽)

(別紙目録省略)

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